眼に入った光は、角膜や水晶体といったレンズを通ることで屈折し、フィルムにあたる網膜に届くことで、脳へと情報が伝わり、物を見ることができるようになっています。しかし、屈折の強さや網膜までの距離に問題があると、ピントが合わずに見えにくい屈折異常と呼ばれる状態となります。
屈折異常の種類
近視
角膜・水晶体の屈折力が強すぎる場合や、眼軸の長さが長すぎる場合に、遠くを見たときに水晶体を十分薄くしても、網膜上でピントが合いません。網膜の手前でピントが合ってしまいます。
近視の進行と近視に伴うリスクについて
近年、先進国やアジア各国では、近視になる子供の割合が爆発的に増えています。小学校入学前から起こる強い近視には、遺伝が強く影響しますが、小学校入学後に起こる近視には環境(屋外活動時間や、近くを見ている時間)が影響し、生活環境の変化が近視人口の増加の原因の多くを占めると考えられます。近視の進行(眼軸長の延長)は体の成長と同じ時期に起こり、成人になる頃に近視進行が止まります。何か気をつけていれば近視の進行を防げる、というものではなく、近視の進行は体が成長する過程で、誰でも必ず、自然に起こるものです。環境が大事とは言え、遺伝や成長の影響が大きいので、スマホの見過ぎや勉強のし過ぎは、近視の進行する要因の1つではあっても、その主な原因ではありません。低年齢で近視を発症すると、近視が強くなりやすく、近視が強ければ強いほど、他の眼の病気を発症するリスクが高まることが報告されているので、成人になる前に近視の進行をなるべく抑えることは、生活の質を改善させたり、他の眼の病気の発症を予防するという点で大きな意義があります。
近視進行を抑える方法、治療について
1.屋外活動時間を増やす
屋外活動時間の短さが近視進行と関連することは世界中の研究で明らかにされています。特に、小学校中高学年時(中学受験前の時期)の屋外活動時間がその後の近視進行に最も影響すると考えられていますので、この時期の外遊びはとても重要です。長時間にわたって直射日光を浴びる必要はなく、屋外であれば日陰で2時間程度過ごすだけでも、近視の進行を予防する効果があるとされています。屋外活動が近視進行を予防する理由として、太陽光に含まれるバイオレットライトが近視進行を抑制する可能性(バイオレットライト仮説)が種々の研究で示されています。窓ガラスや眼鏡、コンタクトレンズは可視光の大部分を透過しますが、バイオレットライトを透過しないことに注意が必要です。
2.低濃度アトロピン点眼 当院で対応可
低濃度アトロピン点眼は、アジア各国の研究により近視進行を抑制することが示されています。点眼だけで特段のリスクがなく簡便に近視進行を抑えることができるものの、近視進行が大きい年齢で低濃度アトロピン点眼を中断するとリバウンドが生じるという報告もあるため、数年以上の長期間は点眼を継続することを推奨します。
3.オルソケラトロジー(ナイトレンズ) 当院で対応不可
オルソケラトロジーは就寝時のみ装用することで近視を矯正する特殊なコンタクトレンズです。日中は裸眼で過ごすことができ、さらに近視進行を抑制することが多くの研究で示されています。眼の中にレンズを入れることができる年齢であれば装用可能ですが、レンズを清潔に取り扱うことが大前提となります(感染症などのリスクは通常のコンタクトレンズと変わりません)。また、低濃度アトロピン点眼と同様、近視進行が大きい年齢で使用を中断するとリバウンドが生じる可能性があります。日本では近視矯正治療としては承認されていますが、近視進行抑制治療として承認されているわけではありません。また、オルソケラトロジー自体が保険適応外であり、自由診療です。
※低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーを早期に中止してしまうと、リバウンドが生じる可能性があります。無治療の場合よりも近視が悪化するということではありませんが、せっかく治療して得られた効果が小さくなってしまうことが懸念されます。
4.サプリメント
近視進行を抑制するサプリメントについて、科学的なエビデンスレベルが高いものはありません。一部のサプリメントは中止するとリバウンドを生じることが知られています。
遠視
角膜・水晶体の屈折力が弱すぎる場合や、眼軸の長さが短すぎる場合に、近くを見たときに水晶体を十分厚くしても、網膜上でピントが合いません。網膜の後方でピントが合ってしまいます。遠くでも近くでも調節が必要になり疲れやすい目です。
子供の遠視について
子供の眼は、身長が伸びるのと同様に、視機能が育っている段階です。そのため、子供の時期に視機能に障害があると、発達が妨げられ、いわゆる「弱視」と言う病気になります。「弱視」の代表的な原因に「遠視」があり、世界の失明原因の大きな要因となっております。「遠視」は早期発見と、適切な管理を行うことで矯正可能です。しかし、生まれたときから「遠視」の子供は、見えない事があたりまえと思っているため「見えない」と自分から言うことは多くありません。外から見て発見することは困難であり、日常生活に不自由がなさそうでも視力測定をすると、視力が十分でないため、視力測定で引っかかったり、眼が疲れているため、頭が痛くなったり、細かい作業が長つづきしない、集中力に欠けるなどといったことで発見されます。実際、The VIP-HIP Study Groupの研究では500人の子供を対象とした調査研究では4D以上の遠視 (未矯正)と3~6Dの遠視の子供 (4~5才)では手元の視力が悪く (0.5未満)、就学時に成績が下がっているとの報告があります。
また、ピント合わせをしようとすると、内斜視(寄り目)になります。斜視も「弱視」の原因の一つであり、両眼視機能が発達しない問題もあります。
「遠視」の治療は適切な眼鏡での矯正です。万が一、「弱視」になってしまっている場合、よく見える方の眼を隠して、視力の悪い方の目を積極的に使わせる訓練や、斜視の場合はプリズム眼鏡の処方を行います。
大人の遠視について
大人の「遠視」は子供と違い、眼精疲労などの症状に直結します。これら「遠視」は屈折異常であり、例えば点眼薬や手術で綺麗に治るものではありません。屈折検査や、視力検査などを行い、必要に応じ、患者様個々に最適な眼鏡やコンタクトレンズを用い、視力矯正を行います。また、白内障をはじめとする眼の病気によっても「遠視」は変化するため、定期的な眼科通院の必要があります。
乱視
乱視とは、屈折力が屈折点により異なるために、焦点を結ばない状態のことを言い、正乱視と不正乱視とに分けられます。正乱視は角膜や水晶体のカーブが方向によって違うため、屈折力が縦、横、斜めで異なり、焦点を一点に合わせることができません。正乱視があると一方向の線のみが明確に見えますが、他の方向はぼやけて見えます(下図参照)。一方、不正乱視は炎症や外傷などによって角膜表面に凹凸が生じたために正常に像が結ばれない状態であり、眼鏡やコンタクトレンズを装用しても視力向上が難しいです。
治療法
屈折異常の多くは、眼鏡やコンタクトレンズを装用することで解決できます。日々の生活の中で不自由な見え方の状態を続けていると、生活の質が下がるだけでなく、眼精疲労など、辛い症状に繋がってしまう可能性もあります。見え方に不自由さを感じた方は気軽にご相談ください。